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東京地方裁判所 平成9年(ワ)23595号 判決 1998年5月29日

原告 三井薬品株式会社

右代表者代表取締役 A

原告 明治ゴルフ株式会社

右代表者代表取締役 B

右両名訴訟代理人弁護士 千葉昭雄

同 大森勇一

同 田中宏

被告 都市環境開発株式会社

右代表者代表取締役 C

右訴訟代理人弁護士 若山保宣

同 西村國彦

同 船橋茂紀

同 泊昌之

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告は原告らに対し、それぞれ金六三〇〇万円及びこれに対する平成九年一一月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求原因

1  原告らは被告との間で、原告三井薬品株式会社にあっては平成二年一一月七日、原告明治ゴルフ株式会社にあっては同年一月一〇日、被告所有の鳳琳カントリークラブ(以下「鳳琳」という)の正会員となる契約(以下、これらの契約を「本件会員契約」という)を締結し、原告ら各自は入会保証預託金として六三〇〇万円を支払った。

2  被告は、平成九年三月、突然、鳳琳の会員権(以下「本件会員権」という)を次のとおり分割し、正会員数を一八〇〇名、平日会員数を六〇〇名にすることを決めるとともに、これを対外的に公表し、会員に対しても分割の同意を求めてきた。

(一) 額面一八〇〇万円の会員権は正会員権一口と平日会員権一口に分割する。

(二) 額面二七〇〇万円の会員権は正会員権二口に分割する。

(三) 額面三六〇〇万円の会員権は正会員権二口と平日会員権二口に分割する。

(四) 額面四五〇〇万円の会員権は正会員権三口と平日会員権一口に分割する。

(五) 額面六三〇〇万円の会員権は正会員権四口と平日会員権二口に分割する。

(六) なお、分割後の正会員権の額面は一三五〇万円であり、平日会員権の額面は四五〇万円である。

3  鳳琳の次のような特質を考えると、右会員権の分割は、鳳琳の会員権の財産的価値及び付加価値を侵害するものであり、被告には本件会員契約の債務不履行が認められる。

(一) そもそも、鳳琳は多額の費用を投じて建設されたものであり、「世界に誇れる日本の文化遺産」であることを自認し、コース全体が日本庭園風になっており、コース内には滝が流れ、売店では和服姿の女性が抹茶を立てるという演出がなされていた。さらに、クラブハウス内はD画伯の絵などの美術品が並べられており、高級感を演出していた。また、会員のためにクラブハウスに隣接して、超高級宿泊施設を作るなどしている。そして、鳳琳は会員数を一一八〇名に限定することを特に強調して保証し、これを会則に定め、入会保証預託金証書にその旨の記載をしていた。

(二) それゆえ、鳳琳の入会預託金は高額であり、その稀少性と相まって、それ自体財産的価値の高いものとなっていた。また、鳳琳の会員になることは一種のステータスとなっており、鳳琳の会員権には付加価値が付いていた。

(三) 鳳琳は会員権に高い財産的価値と付加価値が付いていることを前提に、ゆとりと格調をセールスポイントにして会員権を販売していた。

4  原告らは、右債務不履行を理由として、本件訴状をもって本件会員契約を解除する旨の意思表示をした。

5  よって、原告らは被告に対し、それぞれ預託金六三〇〇万円の返還及び訴状送達の日の翌日である平成九年一一月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告が会員に対して各号記載の会員権の分割に関する同意を求めていることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。ただし、(一)の事実は概ね認める。

三  被告の主張

1  会員権の分割は、被告が一方的に決定したものではなく、会員の同意を求め、同意した会員についてのみ会員権の分割を行っているものである。

2  被告は、預託金償還対策として、会員権の分割等を行うために、会則三九条に基づき、正会員数を一一八〇名から一八ホールのゴルフ場の正会員として適正な人数である一八〇〇名まで増やせるように、会則七条を変更したものである。のみならず、全会員の八五パーセントの同意が得られている現時点においても、正会員数は一〇〇〇名程度であり、将来的にも一一八〇名を超えるかどうかは不明な状況である。

第三当裁判所の判断

一  甲第四ないし第六号証、乙第二、第六号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  鳳琳は平成元年に開場したゴルフクラブであり、その会則七条によれば、鳳琳の正会員数は一一八〇名に限定するものとされていた。

2  被告は、平成八年、預託金償還対策として、正会員数を一八〇〇名まで増やせるように規約改正をすることとし、同年九月一日、会則三九条の「本会則の改正は、理事会及び会社の双方がそれぞれ提案できるものとし、双方同意によりその効力を生ずる」との規定に基づき、会則七条の正会員募集限度数を一八〇〇名とする規約改正を行った。

3  右規約改正に伴い、被告は、被告が会員に対して請求原因2の各号記載の会員権の分割に関する同意を求める書面を会員に発送し、平成九年一二月三一日の時点において、八五・五パーセントの会員から分割案に対する同意を得ている。

二  右認定の事実によれば、正会員の募集限度数を一一八〇名から一八〇〇名に変更する規約改正は、規約三九条の定めに則って行われたものであり、右規約改正自体が本件会員契約上の債務不履行を構成するものではない。また、右規約改正に伴い、被告は会員に対して請求原因2の各号記載の会員権の分割に関する同意を求める書面を会員に発送しているが、右会員権の分割は、分割に同意した者についてのみ実施しているのであり、分割に同意しない者の会員権の内容を変更するものではないから、右会員権の分割の提案が、これに同意しない原告らとの関係で、直ちに債務不履行を構成することにもならない。

原告らは、鳳琳が高級ゴルフクラブであることを標榜して会員を募集したにもかかわらず、右のような会員権の分割を行うことは債務の不履行を構成する旨主張する。しかし、正会員募集限度数を一一八〇名から一八〇〇名に増加させることが、直ちに本件会員権募集当時構想した鳳琳のゴルフクラブの性質の基本的な部分を破壊するものということはできず、他に被告が本件会員権契約上の債務の履行を怠った事実を認めるに足りる証拠はない。

三  よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 園尾隆司)

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